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月末になると、ゆうちゃんは
薄い給料袋の封も切らずに
必ず横町の角にある 郵便局へ
飛び込んでゆくのだった
仲間はそんな彼を見て、みんな
貯金が趣味のしみったれた奴だと
飲んだ勢いで 嘲笑っても
ゆうちゃんは ニコニコ 笑うばかり
僕だけが知っているのだ
彼はここへ来る前に たった1度だけ
たった一度だけ 哀しい過ちを
犯してしまったのだ
配達帰りの雨の夜 横断歩道の人影に
ブレーキが 間に合わなかった
彼はその日 とても疲れてた
人殺し あんたを許さないと
彼をののしった
被害者の奥さんの涙の足元で
彼はひたすら大声で泣きながら
ただ頭を床にこすりつけるだけだった
それから彼は 人が変わった
何もかも忘れて 働いて 働いて
償いきれるはずもないが せめてもと
毎月 あの人に仕送りをしている
今日 ゆうちゃんが 僕の部屋へ
泣きながら 走り込んで来た
しゃくりあげながら
彼は1通の手紙を抱きしめていた
それは事件から数えて ようやく7年目に
初めてあの奥さんから
初めて彼宛に届いた便り
「ありがとう あなたの優しい気持ちは
とてもよくわかりました
だから どうぞ送金はやめて下さい
あなたの文字を見るたびに
主人を思いだして 辛いのです
あなたの気持ちは わかるけど
それより どうか もう
あなたご自身の人生を
元に戻して あげてほしい」
手紙の中身は どうでもよかった
それよりも 償いきれるはずもない
あの人から 返事が来たのが
ありがたくて ありがたくて
ありがたくて ありがたくて
ありがたくて
神様って 思わず僕は叫んでいた
彼は許されたと 思っていいのですか
来月も郵便局へ通うはずの
優しい人を 許してくれて ありがとう
人間って 哀しいね
だってみんな優しい
それが傷つけあって かばいあって
何だか もらい泣きの涙が 止まらなくて
止まらなくて 止まらなくて
止まらなくて |
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