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「歳月不待人」(歳月人を待たず)。この句は陶淵明(中国の魏晋南北朝時代の文学者)の「雜誌十二首」の「其の一」に出ているもので、十二行の詩の最後の一行です。

陶淵明は、酒を愛した詩人でした。十二行のうち、中間の四行では「肉親ばかりが親しいわけではない。近隣の人たちを招いて酒を飲むのもいいものである」といい、最後に「若い時は二度とないのだ、大いに励みなさい」と言って、「歳月人を待たず」と結んでいるのです。
「励む」ことを詩では「勉励」といっているのですが、これは本来「行楽」を意味しているそうです。二度と無い人生なのだから大いに楽しもうではないか、というのがこの詩全体の内容なのです。

ところが、最後の一行「歳月人を待たず」だけが特別に取り上げられ、「時間は人を待ってはくれないぞ、若いうちに大いに学びなさい」という意味に理解され、広まってしまったのです。たしかに「時の流れ」の速いことには驚かされます。人間の都合に関係なく、サッと過ぎてしまうのが時間です。むしろ、人間以外の動植物の方が時の流れを知り、それに順応して生きているように感じられます。

詩人・三好達治は、次のような詩を詠んでいます。

「かよわい花」
かよわい花です
もろげな花です
はかない花の命です
朝咲く花の朝顔は
昼には萎んでしまいます
昼咲く花の昼顔は
夕方萎んでしまいます
夕方に咲く夕顔は
朝には萎んでしまいます
みんな短い命です
けれども時間を守ります
そうしてさっさと帰ります
どこかへ帰ってしまいます

時間にあらがわず、咲く時には咲き、散る時には散る、これが花なのです。
この詩を読むと、人間のことは一つも触れていないのに自分の一生はどうなのか、と考えさせられます。 一生の終わる時がいつかがわからないだけに、一日一日を大切に過ごさなければならないと反省させられます。

死期を悟って最後の仕事をする動物もいます。
ネパールのチトワンという所に大きなジャングルがあるそうです。そのジャングルには、ところどころに大きな穴があります。現地のガイドによると、やがて死を迎えるサイが作るそうです。「お墓かな?」と思ったら、そうではなくて子孫の為の《水溜め》だそうです。

老いたサイが体を横にして回転させ、雨を溜める為の穴を作るそうです。これを集まった子孫たちが見ている前でするそうです。そのおかげで八ヶ月の乾季に多くの動物たちは水が無くて死んでいくのに、サイ一族はその水のおかげで生き長らえるそうです。他の動物がそれを知って飲みに来ても、サイは決して怒らないそうです。この《水溜め》作りの仕事が代々承け継がれていくので、サイは何万年も生きられるのだそうです。そして、この穴を作ったサイは必ず一週間以内に密林の奥へ行って息を引き取る、とのことでした。サイは死ぬ前に子孫繁栄の為に欠くべからざる仕事をして旅立っていく、私たちはこのサイの生き方に学ばなければなりません。

毎日を慌ただしく過ごしている私たちは、刻々と過ぎていく時間のことは忘れがちです。しかし、私たちの与えられた命も確実に秒読みに入っているのだということを悟り、花や動物たちの生き方に学ぶことも大切なのではないでしょうか。
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