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世間には、「自分はどうしてこないに不幸なんやろう。周囲からは蔑視されるし、やる事なす事、うまいこといかへんし、こないなくらいなら、いっそ死んでもうた方がマシや」と、落ち込んでいる人が結構います。こうした人ほど、不幸な自分にひきかえ、周囲の人は皆嬉々として人生を楽しんでいるように思いがちで、その姿を垣間見て羨ましがったり、時には妬んだりします。そして、中にはムシャクシャした気持ちを周囲の人にぶつけたり、車やバイクを爆走させてストレスを解消する人がいたりしますが、それよりは酒を飲んで憂さを晴らす方が、他人に害を与えないだけはマシかも知れません。

精神科医の神谷美恵子さんは、『人間を見つめて』(みすず書房刊)の中で次のように著しています。

「…人間が何かストレスに出会い、悩み始める…こうした時、苦しみをまぎらわすために、アルコールや麻薬、あるいは快楽追求などの道を選ぶ人もいる。心の病に逃げ込む人も多い。しかし、人はじっと踏みこたえて光を求めているうちに、自分の生を外側から、また内側から支えてきたものに、思いが至るのであろう。自分一人で生きてきたつもりでも、実はどれほど多くの配慮と許しと助けが自分の上に注がれてきたか、ということに気づくであろう。したがって、苦しみというものは、人間が初めて人間の生の条件を自覚する契機なのだと思う。苦しみや挫折をこのように生かすことができれば、これもまた大きな恩恵となる」

あなたは今、住む場所は勿論、食べ物にすら困っておられますか?。もし、困っているなら、とりあえず今日一日の糧を得るために働いてみて下さい。いくら不況だとはいえ、贅沢を言える状況では無いのですから、職を選ばなければ、必ず一日生きるぐらいの稼ぎにはなる筈です。

私たちは、何か不満があると周囲を見渡し、そこに自分の意にそぐわない事を見つけると、それを叱責してうっぷんを晴らそうとする傾向があります。しかし、そんな事をしても、自分の人生に何のプラスにもなりません。私たちは、どんなに辛い事があろうとも、《せっかく授かった命を、いかに生きるべきか》を見失ってはならないのです。

あるところに、右手に重度の障害のある女性Aさんがいます。彼女がまだ幼い時、彼女の母親が、Aさんがいるのに気づかずに戸を閉めたため、彼女の右手の指を切り落としてしまったからです。彼女の母親は、あやまちとはいえ、自分の不注意からわが子を障害者にしてしまった事故を悔い、子供の将来のことも考えた末に、自分の人生にピリオドを打とうとさえ考えたそうです。

ところが、Aさんはそんな母親の気持ちをよそに、元気に幼稚園に通い、友達と仲良く遊んでいました。しかし、小学校へ上がってからは、ノートさえほとんどとれない彼女を思いやって、学校側が養護学校への転校を勧めたほどでした。けれども、彼女はその勧めをきっぱり断り、とうとう立派な成績で無事卒業し、さらに中学・高校へと進学して、今では自営業の親の手伝いをしています。

彼女は、

 「自分は、今までいろんな経験をしてきました。人というのは自分がその立場になってみないと、なかなかその辛さがわからないものです。多くの人は、自分に関わりの無いことには見て見ぬふりをして、手を差し伸べてくれようとはしません。初めの頃は、そうした人を見るたびに恨めしく思いました。でも、今は違います。……こう思えるようになったのは、事故のお陰です」と言っています。

彼女の母も、

 「私は、今まで娘の手を見るたび、自分の犯した罪の大きさにおののき、ずいぶん悩みました。いっそ娘を道連れに心中しようかとさえ、考えたこともありました。でも幼い娘が、そんな意気地の無い私をはねのけるように次々と勉強にチャレンジし、一所懸命生きている姿を見て、なんて馬鹿な親なんだろうと恥ずかしくなりました。娘は私の恩人で仏さまです。私は、娘のお陰でいろいろ学ばせてもらいました。これからは、どんなことがあっても生きていられることに感謝の気持ちを忘れずに、この命を大切にしていきたいと思います」

と語っています。

昔から「落ちぶれて 袖に泪のかかる時 人の心の奥ぞ知らるる」と言いますが、災難に出くわした時、それを不幸と受け止めるにとどまるか、逆縁と受け止めて前に進むかは、本人次第なのです。完璧に満たされている人はいないのですから、心の持ちよう一つです。

最後に女流詩人の金子みすゞの詩を記しておきますので、御堪能下さい。


 「私と小鳥と鈴と」

 私が両手を広げても
 お空はちっとも飛べないが、
 飛べる小鳥は私のように
 地面を速くは走れない。

 私が体を揺すっても
 きれいな音は出ないけど、
 あの鳴る鈴は私のように
 たくさんな唄は知らないよ。

 鈴と、小鳥と、それから私、
 みんな違って、みんないい。
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