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孔子には、多くの門弟がいました。その中に孔子の晩年の弟子で、子夏(しか)という若者がおりました。子夏は、少し引っ込み思案だったようですが、まじめ且つ優秀で、孔門(こうもん)の十哲(じってつ)に挙げられています。孔門の十哲とは、孔子の弟子の中で特に優れていた十人のことを指します。

*ただし、この中には曾子と子張が含まれていない為、第三者による撰であるというのが定説。

子夏 キョ(草冠に呂)父の宰となりて政を問う。
子曰く。速やかならんと欲すること母かれ。
小利を見ること母かれ。
速(すみや)やかならんと欲すれば則ち達せず。
小利を見れば則ち大事成らず。

これは、子夏がキョ(草冠に呂)父という場所の地方長官となって赴任する時のやり取りです。現場に出るにあたっての心構えを子夏が問うたところ、孔子は

「急いで成果を上げようと思ってはならない。事を急げば、かえって失敗して、目標を達成できなくなるものだ。目先の小さな利益に執われても、民のためになる大きな事業は成し遂げられない。」

と諭しています。

そこで子夏は、

子夏 曰く。日に其の亡き所を知り、月に其の能(よ)くする所を忘るること無し。
学を好むと謂うべきのみ。

「日々、新しいことを知り、月ごとに新たに身につけたことを忘れないように努める、つまり学ぶことによって多くを知り、知ったことを理解し実践することができてこそ、学問好きと言えるのだ」

と言っています。自分自身が学問好きだった子夏らしい言葉です。

さらに子夏は、

百工、肆(みせ)に居て以って其の事を成す。君子、学びて以ってその道を致す。

「優れた職人たちは、自分の仕事場で自分の仕事を完成させる。君子は、学問の場に身を置いて、道を究めていく。」

と言っています。一流の職人は、自分の仕事場で最高の仕事をします。それは、そこに道具が揃っているからなのです。同様に、指導者となる人には、仕事をする上で最適な場所があります。それが、学問だというのです。学問を通じて、身につけた知識をいかに実践するべきか、を覚っていくのです。

孔子は知識の実践を第一としていましたので、子夏はその実践の支えとなる学問を大切にしたのです。孔子の教えを受けた弟子たちの体を通し、新たな言葉となって発信されているのも、『論語』の魅力の一つです。

子夏 曰く。博く学びて篤く志し、切に問いて近く思う。仁 其の中に在り。

「まず広く学び、志(こころざし)を篤くする。わからないことは切実に問い、充分に理解を深める。そのようにして身に着けたことは、すべて実際の問題に当てはめて実行する。このような生き方をしていれば、仁(じん)は育(はぐく)まれていく。」というのです。博く学ぶというのは、単に知識を得ることだけでなく、人間としてどうあるべきかをも含んでの話です。どんなに知識や学歴があっても、人の道に外れた行為をしていては素晴らしい人物とは言えません。

学ぶこと、志を持つこと、理解を深めること、自分で考えて工夫し実践すること、日頃孔子が語っている教えの大事な要素が、すべて語られています。ここにも子夏が優秀な弟子であったことが垣間みえます。そして、このような生き方にこそ仁がある、と総括しています。

*【仁】親愛に基づく一切の徳の中心となる美徳、深い愛情を他に及ぼすこと、思いやり
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